ベイビー&ベイビー
俺の名前は川野拓海。28歳。沢商事、営業一課の営業マンだ。
この仕事について早5年。気がつけば下に後輩も増え、中堅どころに突入。そんな感じだ。
俺の武器はベビーフェイスといっても過言ではない。
若くみられると嘗められて営業としては最初は辛いところだが、仕事が出来るところを見せればたちまち幼い顔立ちは武器と化す。
営業は人と人との繋がりだ。
可愛がってもらえれば、その関係は長く続く。
俺の営業成績がいいのは、実力とベビーフェイスのおかげということだ。
周りから可愛い、といわれるのは大の男としてどうかとは思うが、好都合な点もある。
見た目がかわいらしいというだけで、警戒心は解かれるし、まさか裏の顔があるなんて誰も気がつきもしないから。
俺の裏の顔。
それはこの沢商事を傘下に含む、SAWAコーポレーションの重役であるということ。
実際はとくには重役として動いてはいないが、ポストだけはあるといった状態だ。
俺の祖父はSAWAコーポレーションの現会長であり、父は現社長だ。
暗黙の了解で、俺はその跡目を継ぐことは決まっているが今は傘下会社である沢商事で修行の身。
少しずつ足がかりをつけておいて、頃合を見て重要ポストに就く予定だ。
俺の本名が沢 拓海だということを会社で知っているのは、叔父であり、この沢商事の社長を務めている徹叔父さんだけだ。
川野は母方の苗字。
沢だといえば、すぐにSAWAコーポレーションの血縁者だということがバレバレだから、あえて川野姓を名乗っているのだ。
このことは、目の前のさやかにも明日香にも内緒の極秘なこと。
だからこのベビーフェイスで穏やかに笑えば、誰も疑うことはない。
それに俺が幼い顔立ちに似合わず、腹黒な性格だということも隠せて都合がいい。
会社では可愛い男子を貫いているから自分のことを僕というが、一歩会社から出れば「俺」に変わる。
髪型もナチュラルな雰囲気からは一遍、少しだけハードな感じにするし、眼鏡をかけて少しだけ年相当な雰囲気をだす。
会社の人間は、一見ではプライベートの俺は変わりすぎていて気がつかないだろう。
そういう意味では、この顔はそうとうな武器だ。