ベイビー&ベイビー
ベビーフェイスといえば。
目の前の明日香も結構な童顔だ。
笹原明日香。27歳。営業一課で事務をしている彼女は俺と同期。彼女も幼い顔だちだ。
年齢は20代前半にしか見えない。下手するとセーラー服なんて着ればまだまだ高校生でも通用しそうな雰囲気だ。
性格は明るいし、素直だ。俺とは正反対の性格の持ち主。
こういう彼女こそ、マスコット的存在というのだと思う。
性格に裏表はない。マイペースだが、仕事はミスなくこなす。
だからこそ、俺は彼女とは近い距離で関係を保っていけているのだと思う。
基本、俺は会社の人間とは一線を引いている。
いつか俺の素性がばれた時のために、だ。
しかし、同期であり同じ課の明日香とは結構打ち解けていると思う。
そして、変わり者だが頭の切れるさやかとも。
そうはいってもプライベートではお互いバラバラ。
会社から一歩でれば、お互い何をしているか、どこに住んでいるのか。全く知らない。
それがかえっていいのだと思う。
俺たち三人にはこれぐらいの距離感がいい。それは他の二人も思っていることだと思う。
「でも、谷さん」
「なによ?」
「その写真、変なところにはばら撒かないでよ?」
「わかってるわよ。その辺はぬかりなく、よ」
再びキヒヒと下品に笑うさやか。
そんなことを言っているさやかだが、実際のところ毎年撮られている写真は誰の手にも渡っていないらしい。
なら、何故こんなことを、と思うのだが。
目の前のさやかにいっても理解できないことを並びたてられるのがわかっているので深くは聞かない。
「あー、おいしかった。これ食べないと春がきたって感じがしないのよねぇ」
「花より団子って?」
「まあね。でも桜も好きだよー」
そういってアルコールをとっていないのに、ナチュラルハイな明日香。
その様子をまったりとさやかと俺で眺めるのは毎年のこと。
これからもこんな関係が続くと思っていた。
しかし、この春から3人の関係が変わっていくことになるなんて。
ハラリハラリと淡く舞う花びら。
俺たちはそんな光景をなんの疑いもなく眺めた。