ベイビー&ベイビー
「じゃあ、どんなことするかは……本当に知っているってことだよね?」
「わかってるわよ」
何度も同じことを聞く俺に、明日香は顔をしかめたが、いたく真剣な面持ちだ。
大きく頷く明日香。
ますます頭が痛くなってきた。
さて、セフレという単語の意味も、どういうことをするのかも知っているようだ。
それをどうやって諦めさせれるかってことだ。
「……どうしてセフレなんて?」
「う……ん」
「明日香ちゃん?」
少しだけ躊躇した様子の明日香。
セフレになりたい、なんて言い出した明日香だが、なんだか様子がおかしい。
やっぱりしり込みしたくなったのか、と思うと俺は思わずほほえましくて笑ってしまった。
「セフレになるの……嫌になった?」
「……あのね!」
明日香は意を決したように、僕の顔をマジマジと見る。
その顔はありえないぐらいに真っ赤で、思わず見ている俺もドキドキしてしまった。
「拓海くんのことが、知りたかっただけなの」
「……え?」
「拓海くんが、どこか私たちと一線引いているってわかってた。その内に入りたいって思ってもなかなか入れてくれない。あと少しで入れるかなって思っていると、翻して逃げてゆく」
「……」
「それがなんとなく今日分かった気がした。本当の拓海くんはもっと違うところにいたってことでしょ?」
「明日香ちゃん」
「本当にびっくりしたよ、今日の拓海くん。私が見ていた拓海くんと全然違っていたし……あ、でも」
思い出したように明日香はクスクスと笑った。
「時折、隠しきれていないことあったかも。今、思い出せばってことで今までは全然気がつかなかったけど」
「……隠しきれていなかった? 完璧だと思ってたけど」
「よくおばあちゃんに叱られていたよね。拓海は悪知恵だけは働く、って」
「……どういうこと?」
なんで明日香がそんなことを知っているのだろう。
確かに、京都の祖母にはそういって怒られていた。
怒られていたが。
何故、明日香がそんなことを。
俺は不思議に思って、明日香を見つめると、明日香は少しだけ悲しそうな笑みを浮かべた。
「拓ちゃん。私のこと、忘れたんでしょ? 約束したのに」
そういって明日香は俺を睨んだ。