ベイビー&ベイビー
本当に今日はいろいろなことがありすぎた。
慣れないパーティに出席して、九重の爺さんに苛められ。
そして会社の同期である笹原明日香に出会って、ご飯を食べに行けば、昔よく京都で遊んだことがある女の子だと判明して。
そこまではよかった。
楽しかった幼き頃の思い出。
それを思い出させてくれ、そのときの女の子が明日香だとわかった。
それだけでよかったのだ。
あのときの女の子は明日香ちゃんだったのか、そういってお互い笑っておしまいになるはずだった。
しかし。
明日香はとんでもないことを言い出したのだ。
俺のセフレになりたい、と。
ありえなかった。
あの明日香が言う台詞ではない。
だから、最後の最後まで考えを曲げない明日香に俺は。
冷たい言葉で切り捨てた。
これでよかったんだ。誰に聞いても、きっと同じことを言ってくれるだろう。
なのに、なんだかすっきりしないのは何故だ。
これがきっかけで、明日香との関係が崩れるかもしれないと杞憂してのことか。
愚痴交じりで、目の前の真理子にそのことを話すとたまらないとばかりに真理子は噴き出した。
「拓海、あなた馬鹿ね」
「馬鹿? どこが。俺は間違ったことはしてねぇよ」
「そうね。常識からすれば間違ったことはしてないわ。子猫ちゃんに全うな道を指導したんですもの」
そのとおりだ。
俺は間違ったことはしていないと自負できる。
明日香には、そんな恋愛ごっこなど似合わないし、やるべきではない。
俺は明日香に全うな道を教えたんだ。
褒められることはあっても、けなされることはないはずだ。
なのに、目の前の真理子は今だ面白そうにニヤニヤとして俺の顔を覗き込んでいる。
全く、なんだというのだ。
「拓海、あなたにはあの子が訴えていること、何も感じなかったの?」
「は?」
「子猫ちゃんが、なんでセフレになりたいなんていいだしたのか。考えたのかって言ってるのよ」
「……」
「あの真面目そうで純粋無垢の子猫ちゃんが、突然言う台詞じゃないでしょ?」
真理子のいうことはもっともだと思う。
でも、そのときの俺は動揺していて、その辺りのことをうやむやにしていた気がする。
俺が何も言わず黙りこくっていると、真理子は大きくため息をついた。