ベイビー&ベイビー
今、俺が勤めている会社。沢商事では営業として日々仕事にいそしんでいる。
その先々でも、俺の容姿を見て最初は頼りなく思われがちだが、仕事は完璧主義の俺だ。
すぐさまその誤解は解ける。
で、童顔の俺は男女問わず可愛がられるから、その後の関係も友好的なものとなる。
この顔のおかげで仕事もしやすい。
出来れば、母親譲りでクールなイメージの顔が欲しかったと思わなくもないが、結果このベビーフェイスが隠れ蓑の役目をしてくれているので困ることはない。
「お客さん、そろそろ着きますよ」
俺が寝ていると思っていたのだろう。タクシーの運転手は俺の25階のマンションが遠くに見え始めてから声をかけてきた。
俺は返事をするわけでもなく、ただ流れる車窓を眺めた。
テールランプが続く首都高が、眠らない街を象徴しているかのようだ。
この街は都合がいい。
自分を隠すには最適だ。
携帯を開いて、明日のスケジュールを思い出す。
そういえば、課の飲み会があった。至極めんどくさいが、今後の円滑な関係を築くには必要なこと。
俺はひとつため息を零した。
タクシーを降りて、マンションのロビーへと向かう。
その道には、桜がトンネルのように連なっている。
花びらが舞い散り、今年の桜も終わりを告げていた。
少しずつ緑の葉が見え隠れしている。
葉桜になるのもあと一週間ほどでだろうか。
来年までこの美しい桜の花を見るのはお預けだと思うと、なんとも切ない気持ちになる。