ベイビー&ベイビー
第10話
第10話
「ふーーーむ」
「……なに? 谷さん」
じっと俺の顔を無表情で覗き込んできたかと思うと、突然フンと鼻で笑うさやか。
明日香と衝撃的な夜を過ごした日から2日。今日は月曜日。
セフレにしてほしいという、あの衝撃的な言葉を言われた夜から明日香には会っていない。
今日、覚悟を決めて会社に来てから気がついたのだ。
そういえば、明日香は月曜日有給を取るといっていたことを。
だから、なんだか拍子抜けした気持ちで過ごした午前中。
なんとか外回りをこなして、昼メシにありつけたのだが。
俺はランチを食べる手を止めて、さやかを怪訝な顔をして見つめた。
「拓海くん」
「なに? 谷さん」
「お主、このさやか様に占って欲しいことがあるだろう?」
「は?」
突然何を言い出しかと思えば、俺はあっけに取られて目の前のさやかを凝視してしまった。
そんな俺の腑抜けた顔を見て、さやかは満足げに笑っている。
俺の承諾も取らず、とつぜん社員食堂の一角でタロットを広げだしたさやか。
慌てたのは俺だ。
今まで、何度となくさやかに占ってあげようかと言われ続けてきたが、断固拒否をしてきた。
占いなんて当たるも八卦当たらぬも八卦とは言うが、目の前のさやかの占いは恐ろしいほどに的を射抜いているらしいのだ。
なんとなく、自分が隠しているものを見抜かれてしまいそうで断っていたというのに。
止めるまもなく、さやかはすでに占いを始めてしまった。
「……谷さん」
「ちょっと黙っていて。神経を集中させて」
「いや、だから。僕、占って欲しいなんて一言も、」
「だまらっしゃい!!」
「はい」
すごい剣幕で睨まれて、思わず返事をしてしまった俺。
唯一救われるのは、今が実は昼時ではないということ。
午前中は外回りをしていたので、社に戻ってきたのはお昼過ぎ。
食堂も人がまばらだ。
そして、目の前のさやか。
彼女はきっと今日が電話当番の日だったのだろう。
事務の女の人たちで、順番にお昼の休憩時に電話当番をしている。
電話当番をしていた人は、午後からの始業が始まるとやっと休憩に入れるというわけだ。
時計を見ると、午後の始業がすでに始まっている。間違いない。
さやかは今日電話当番だったのだろう。
そして今日、僕が外回りをして、昼の時間が過ぎてから食堂を訪れるということを、分かっていたのだと思う。
そうでなければ、こうしてさやかがタロットのカードを食堂まで持ち込んでいるはずがないのだから。
要するに、さやかは前々から今日という日を狙っていたということだ。
何故に彼女が、ここまでして僕のことを占いたいと思ったのかは疑問だが。