ベイビー&ベイビー
第11話

第11話


「ねぇ、見た?」

「見たよぉ! 超ショック」

「これガセネタだと信じたいんだけどー」


 だよね、とため息交じりの声。
 どうやら週刊誌を見ているらしい。
 そんな課の後輩たちの話を聞くわけでもなく、さらりと流しながら仕事を進める。

 今は就業後。
 金曜日だ。誰もが、これから飲みにいったり、デートをしたりと忙しい。
 だからこの夜は皆、残業だけはしないようにとばかりに朝から気合がはいる。

 あれからの明日香と俺の関係はというと、何も変わっていない。
 間にさやかをいれて、いつもどおりのまったりトーク。
 あんなことがあったなんて忘れてしまいそうなぐらいだ。

 明日香はいつものように、にこにこと笑う。
 そして俺も、明日香につられて笑う。
 そんな俺たちを見て、さやかは二言三言言って茶化す。

 日常だ。
 今までとなんら変わらない日常。

 俺がずっと変わらないでほしいと願っていた日常が、そこにはあった。

 明日香とはこんな関係がやっぱりいい。
 しっくりくる。

 明日香の隣はとても居心地がいい。
 穏やかな気持ちでいられる。それがとても今の俺にとっては貴重なことだ。

 あの夜の出来事はきっと夢だったのだ。
 だから、こうして三人普通に、今までどおり付き合うことが出来ているのだ。

 そう、夢だ。
 夢だったのだ。

 都合の悪いことは、すべて流すに限る。
 俺は、明日香の今までと変わらない態度を見て、安堵して過ごした一週間。
 月曜は明日香が有給をとっていたので拍子抜けしたが、あの夜から初めて顔を合わせて火曜日。
 気まずい気持ちで会社に行くと、そこには変わらぬ明日香の笑顔があった。

 かなり安心したのだ。
 だから、俺の中であの夜の出来事はなかったことにしたのだ。
 きっと明日香も、なかったことにしたかったのだろう。
 明日香の一週間の態度を見れば、お見通しだった。

 その明日香は就業が終わると、先に失礼するね、といつもの笑顔で会社を出て行った。
 そして、意味ありげなことを月曜日に俺に言ったさやかも、特にこれといって俺に苦言することはなかった。

 自分で考えろ、と言わんばかりのさやか。
 しかし、現時点では俺にはなんのことだかさっぱりわからない。
 特に、これといって俺を揺さぶるような事件は起こっていないように思う。

 全くもって、この一週間は疲れた。
 俺はため息をそっと零す。




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