ベイビー&ベイビー
「そういえば」
思わず今の会社、沢商事に入ったばかりのころを思い出した。
課や部でも花見は行われていたが、新入社員だけで花見をしたことを思い出す。
今の課でも同じように机を並べている同期が、屋台で売っていたと言ってとんでもないものを俺に差し出したのだ。
それはそれは、一粒が俺の握りこぶしほどある三色団子。
「見てみて、拓海くん。すっごいでしょ? おいしそうでしょ? ひと玉あげるね」
そういって串というか、割り箸からひと玉抜いて俺の手にどしんと置いて。
当の本人は、まだふた玉ついた団子を串についたまま大きな口をしてかぶりつく。
「おいし~、ほら拓海くんもどうぞ」
そういって口をモグモグさせて、そのデカイ団子を頬張る女。
そのときから面白いと思っていたが、期待を裏切らない女だった。
同期の中でも一番付き合いがあるヤツだ。
今年もあのデカイ三色団子を売っている屋台は出ているだろうか。
出ていたら一つ買ってやろうか。
俺はあのときの大きな口を思い出して、一人桜を見ながら噴出した。
そのとき。
なんだか懐かしい記憶がふいに沸いて来た。
よく小さい頃は京都へと行って、花見をしに出かけたこと、を。
しかし、京都に行ったのはいつが最後だったろうか。
そうだ。
祖母が亡くなった時が最後かもしれない。
俺が高校3年の春。
大好きだった母方の祖母が死んだ。
こんな風に桜の花びらがハラハラと舞い落ちる夜に祖母は天国へと旅立った。
なんだか実感がわかなくて、俺は近くの円山公園へと足を向けた。
枝垂桜が見事で、俺はその桜の木を見ながら、祖母を想って泣いた。