ベイビー&ベイビー
「それでも明日香は私の隣にいることは出来ないと言ったよ。他の男のことを思っているのに、私の隣になんていられないってね」
「明日香ちゃんなら、そう答えるだろうな」
そういう俺に、涼太郎も深く頷いた。
「だから俺は明日香に言ったんだ。それなら、この二年の間に自分の気持ちにケリをつけろと。一生その男を思うだけで過ごすことは許さないって言ったよ」
「……」
「もちろん、私一人の個人的な感情もあるが。君も知っているんだろう、明日香の実家の話」
「ああ」
涼太郎が言いたいことは分かった気がした。
茶道の名門が実家の明日香。明日香が一生独身で通すのは実質的に無理だ。
明日香の父親は、放任主義とは言っていたが、他の周りが黙ってはいないはずだ。
次から次に縁談を持ってきて、最終的には強引にまとめさせられるのがオチだ。
「で、約束の二年間が過ぎた。だから私は明日香に聞いたんだ。ケリはついたのか、と」
「……」
「ケリはついたと言っていた。自分がどれだけ思っていたって、君には想いは伝わらないと言っていたよ」
「……」
「約束だから、私と結婚すると言ってもらえた」
俺は涼太郎の言葉を耳にいれても、何も口に出来なかった。
でも、何かを涼太郎に言おうとしている自分。
今更、何を言おうというのだ。自分は。
明日香はすでに、自分で自分の道を決めたのだ。
そして俺は、そんな明日香に何を言おうとしているのだろうか。
ありえない言葉が。
ありえない感情が今。
俺を取り巻く。
しかし、それに気がついてはいけない。
気がついたら……きっと。
俺は俺でいられなくなる。
それに、もう何もかもが遅いのだ。
きっと、遅い。
だから、何もかも気がつかないフリをしよう。
今までそれで生きてきたじゃないか。
だから、これからだって出来るはずだ。
見てみぬふり。知らぬふり。自分とは関係ないと割り切れるはずだ。
葛藤を続ける俺に、涼太郎は俺に向かって頭を下げてきた。
怯んだのは俺だ。
突然の涼太郎の行動に慌てた。