ベイビー&ベイビー
祖母だけだった。
俺のことをよく理解してくれていたのは。
確かにうちの両親も俺に愛情をかけてくれていたとは思うし、感謝もしている。
しているが、二人ともとても忙しくて、幼い俺はよく京都の祖母の家に預けられていた。
東京の父方の祖父母のところにもよく行ったが、大型の休みと重なるときは迷わず京都の祖母を頼った。
そこで、俺は長期滞在しているとよく遊ぶ女の子がいた。
もう、だいぶ前のことだから名前を失念してしまった、が。
楽しかった。
あの頃が一番楽しかったかもしれない。
変に家のことにとらわれることもなく、だからといって子供同士でもそんな家のことで言われることもない。
俺個人として付き合うことが出来たあの頃。
もう戻れないとは思っても、戻ってみたい。
そんなふうに思う。
祖母を思って泣いたあの日。
俺は変な女に出会った。
「私、あなたが笑う日が来るまで待っているから! そうしたらまた会おうね」
突然、泣いている俺にそう叫んで去っていった変な女。
どんな容姿だったとか、全然覚えていないが。
その変な出来事だけ。
俺は記憶の片隅に残してあったらしい。
懐かしい記憶とともに、桜の花びらがハラリと舞った。