ベイビー&ベイビー
第18話
第18話
俺の退職と明日香の退職。
それは今日だ。
お互い急な退職だ。
有休は余りにあまっていたが、引継ぎなどの事務作業などが追いつかなくてフル稼働だった。
あれからの俺たちはというと、いつもどおり普通だった。
いや、違う。
普通に振舞っていた。
そういうのが正しい気がする。
それは周りも同じことで、変わってしまう環境に戸惑いながら、残り少ない時間を大切に使おう。
そんな雰囲気で包まれていた沢商事営業部営業一課。
あさってには俺はロスへ飛ぶ。
この会社とも今日で最後だ。
明日香も同じで今日が最後。
デスクは隣。
横を向けば、お互いの気配を感じて。
そんな普通で、当たり前だった日々が終わりを告げようとしていた。
俺は、すべての業務を終え、机の整理をし始めた。
隣の明日香はすでに終わったようで、何をするわけでもなくデスクに座っていた。
その視線の先は、隣のビルに照りつける夕日。
何度となく、同じ景色を見てきた気がする。
見飽きてきたと思っていた景色が、もう最後なんだと思うと特別なもののように感じた。
PCの電源を落とし、すべてが終わった。
そんな俺を見て、さやかが声をかけてきた。
「さ、営業一課同期で最後に飲みにいこう」
すでに課の送別会は終わっていた。
帰り際には先輩、後輩が別れを惜しんでくれた。
俺は、感謝の気持ちを込め、一人ひとりに頭を下げて回った。
最後の日は同期会よ、とさやかが言っていたとおり、他の誰にも声をかけられることはなかった。
きっとさやかが声をかけて回ったのだろうか。
こうして3人だけで飲みにいくのなんて実は初めてだ。
お互いプライベートは明かさずにいた3人だったから。
俺はsawaコーポレーションの御曹司というのを隠して、偽名を使っていたし、さやかは、さやかで木ノ下涼太郎の実の妹だ。
明日香には、そのことを知られたくなかったのだろう。
明日香のことだ、きっと気を使うとさやかはわかっていたのだろう。
だからこそ、仲良くはするが少しだけ距離を置いていた。
「それになんていったって人妻ですからね、私は。ダーリンが帰ってくる前に夕飯の支度したかったしね」
と、この前さやかと話した時にそう教えてくれた。
なるほど。
今更ながらに、本当にプライベートのことを知らなかったんだと思い知った。
一方の明日香。
さやか談だが、きっと俺と距離をとりたかったからだろうと言っていた。
「拓海くんのことが好きだけど、拓海くんに自分の気持ちを気づかれるのを恐れていたんじゃない?」
そうなのかもしれない。
俺は恋愛はしないという主義を通していた。
それは明日香にも伝わっていたのだろう。
九重のじいさんと仲がいいらしい明日香。
九重の口から、俺が恋愛をしない主義だと聞いたことがあるのかもしれない。
そんな俺に、明日香の気持ちが伝わったとしたら……。
俺が拒絶するのではないか、そう思ったんじゃないかと。
さやかは苦笑していっていた。
「明日香ちゃんも、あと一歩ってとこで勇気をださないんだものね」
さやかは知らない。
明日香は最後の最後で勇気を出してくれたのだ。
それを踏みつけたのは間違いなく俺だ。
俺の退職と明日香の退職。
それは今日だ。
お互い急な退職だ。
有休は余りにあまっていたが、引継ぎなどの事務作業などが追いつかなくてフル稼働だった。
あれからの俺たちはというと、いつもどおり普通だった。
いや、違う。
普通に振舞っていた。
そういうのが正しい気がする。
それは周りも同じことで、変わってしまう環境に戸惑いながら、残り少ない時間を大切に使おう。
そんな雰囲気で包まれていた沢商事営業部営業一課。
あさってには俺はロスへ飛ぶ。
この会社とも今日で最後だ。
明日香も同じで今日が最後。
デスクは隣。
横を向けば、お互いの気配を感じて。
そんな普通で、当たり前だった日々が終わりを告げようとしていた。
俺は、すべての業務を終え、机の整理をし始めた。
隣の明日香はすでに終わったようで、何をするわけでもなくデスクに座っていた。
その視線の先は、隣のビルに照りつける夕日。
何度となく、同じ景色を見てきた気がする。
見飽きてきたと思っていた景色が、もう最後なんだと思うと特別なもののように感じた。
PCの電源を落とし、すべてが終わった。
そんな俺を見て、さやかが声をかけてきた。
「さ、営業一課同期で最後に飲みにいこう」
すでに課の送別会は終わっていた。
帰り際には先輩、後輩が別れを惜しんでくれた。
俺は、感謝の気持ちを込め、一人ひとりに頭を下げて回った。
最後の日は同期会よ、とさやかが言っていたとおり、他の誰にも声をかけられることはなかった。
きっとさやかが声をかけて回ったのだろうか。
こうして3人だけで飲みにいくのなんて実は初めてだ。
お互いプライベートは明かさずにいた3人だったから。
俺はsawaコーポレーションの御曹司というのを隠して、偽名を使っていたし、さやかは、さやかで木ノ下涼太郎の実の妹だ。
明日香には、そのことを知られたくなかったのだろう。
明日香のことだ、きっと気を使うとさやかはわかっていたのだろう。
だからこそ、仲良くはするが少しだけ距離を置いていた。
「それになんていったって人妻ですからね、私は。ダーリンが帰ってくる前に夕飯の支度したかったしね」
と、この前さやかと話した時にそう教えてくれた。
なるほど。
今更ながらに、本当にプライベートのことを知らなかったんだと思い知った。
一方の明日香。
さやか談だが、きっと俺と距離をとりたかったからだろうと言っていた。
「拓海くんのことが好きだけど、拓海くんに自分の気持ちを気づかれるのを恐れていたんじゃない?」
そうなのかもしれない。
俺は恋愛はしないという主義を通していた。
それは明日香にも伝わっていたのだろう。
九重のじいさんと仲がいいらしい明日香。
九重の口から、俺が恋愛をしない主義だと聞いたことがあるのかもしれない。
そんな俺に、明日香の気持ちが伝わったとしたら……。
俺が拒絶するのではないか、そう思ったんじゃないかと。
さやかは苦笑していっていた。
「明日香ちゃんも、あと一歩ってとこで勇気をださないんだものね」
さやかは知らない。
明日香は最後の最後で勇気を出してくれたのだ。
それを踏みつけたのは間違いなく俺だ。