ベイビー&ベイビー
「と、いうわけで。明日香。俺は用事が出来たので、この男に茶道を教えてやってくれ」
「リチャード!?」
「明日香、決めていた一年間が過ぎたんだ。そろそろ行動にうつしてもいいだろう?」
「どうして……?リチャードがそのことを」
「俺の上司である、沢新之助の親友だという男からね。とある情報を小耳に挟んだものでね」
リチャードがウィンクをしながら明日香に言うと、明日香は苦笑した。
「一年じゃなくて、勇気が出たらっていったんだけど」
「明日香のこと見守っていたら、いつまでたっても前に進まないからってな。で、俺が少しだけ背中を押してやってくれって頼まれたんだよ」
「もう、おじいちゃんったら」
そういって笑う明日香。
俺はそんな二人のやり取りをただただ、傍観していた。
放心状態の俺を横目で見た、リチャードはおかしそうに噴出すとツカツカ足早に歩き、部屋の扉を開けた。
「と、いうわけで。明日香、拓海。ごゆっくり」
バタンという扉が閉まる音で我に返った俺は、リチャード!と呼んだがすでに遅かった。
俺は大きくため息をつくと、目の前の明日香を見下ろした。
「久しぶりだね、明日香ちゃん」
「うん、そうだね」
そういって笑う明日香。
こんな顔を見るのも一年ぶりだ。
俺はうれしくなって頬を緩めたが、あることを思い出し顔を引き締めた。
「どうして明日香ちゃんがここにいるの?」
「……」
「木ノ下涼太郎と結婚したんじゃ、」
俺がすべてを言う前に、明日香の言葉でかき消された。
困ったように、笑った明日香。
「結婚、しなかったんだ。私」
えへへ、と笑う明日香。
俺の思考回路は今。
確実にストップした。