ベイビー&ベイビー
「そんなの! セフレにしてほしいって言ったときには知ってたよ。知っていて、覚悟を決めて。私、拓海くんに言ったんだよ?」
「明日香……ちゃん?」
「あのパーティー会場であった綺麗な人。拓海くんのセフレさんに言われたの」
「真理子さんに?」
「拓海はsawaコーポレーションの御曹司よ。あの男に近づくと沢の力で潰されるかもよ? それでもいいと思うなら、ぶつかってみなさいよ、って」
俺は最後に日本で真理子に会ったときのことを思い出す。
大物を逃がしたかもっていったじゃない、と。
真理子は明日香にあのパーティーの時点で、俺の素性をばらしていたのだ。
だから、もし明日香が俺にぶつかってきたとしたら。
それは、沢という家のことも覚悟してぶつかってきたこと、ということになる。
明日香は、覚悟してくれていたのだ。
俺がsawaコーポレーションの御曹司だということに。
茶道の家元の一人娘だ。いろんな関係の人との付き合いもあることだろう。
だからこそ、沢という家の大きさや、やっかいごとも明日香にはわかっていた。
わかっていて、俺に抱いてくれと頼んできたというのか。
呆然としている俺に、明日香は決意をしたように真剣な顔をした。
「私、こう見えても頑丈よ? それに、うちだってやっかいな家だもの。多少の苦労は知っているつもりだよ」
「明日香ちゃん」
ああ、もう。
俺はなにをやっているのだろう。
ここまで明日香が言ってくれているというのに。
思ってくれているというのに。
家のせいにして逃げていたなんて。
まったく、男らしくない。
明日香に沢の力が及びそうになったら、俺が守ってやればいいじゃないか。
今の俺になら、出来るはずだ。
大学生になりたての俺には無理だったことも。
今なら。
明日香のためになら…出来る!!!
「明日香ちゃん」
「はい」
「そんなこと言うと俺、もう二度と明日香ちゃんを手放すことが出来なくなるよ。いいかい?」
俺が明日香に真剣に言うと、目の前の明日香は一瞬驚いた顔をして。
そして、その瞬間。
俺が大好きだった笑顔がそこにはあった。
零れんばかりの笑顔。
俺が一番大好きな明日香の笑顔。
「望むところよ! 拓海くん」
「俺のすべてを見て逃げ出すなよ? 覚悟はいい?」
張り切る明日香がかわいくて、俺は少し噴出してしまった。
クスクスと笑う、俺に明日香は不服顔だ。
「拓海君のすべてなんて見てるよ? 猫かぶった弟タイプの拓海くんでしょ? 腹黒で言葉使いも乱暴でクールな拓海くんでしょ? 全部見ているもん!」
自信満々の明日香に俺は、クスリと笑って化けの皮をとった。
明日香が言う、腹黒で言葉使いも乱暴でクールな俺に。
明日香の前なら、どんな俺を曝け出してもいいと思える。
ただ、明日香には忠告しておくことにする。