ベイビー&ベイビー
「俺は明日香ちゃんが好きだ。何があっても別れたくないし、離したくない。明日香ちゃんのご両親に反対されているのなら、認めてもらえるように日本にいってお願いするつもりだ」
「……た、拓海くん??」
あんまりに俺が切羽詰った顔をして、そう訴えているのを吃驚した顔をして見ていた明日香ちゃんだったが、すぐに首を振った。
「ち、違うの。別れたいわけじゃないし、離れたいわけでもないから。両親だって別に反対なんてしてないし…」
明日香ちゃんのその言葉に、俺は胸を撫で下ろした。
よかった。
そうほっとした俺に、明日香ちゃんは覚悟を決めたようにキリリと顔を引き締めた後、小声で呟いた。
「赤ちゃんが出来たの」
「……え?」
一瞬、明日香ちゃんの言っている言葉の意味が理解できなかった。
呆けている俺に、明日香ちゃんは自分のお腹をやさしく撫でて聖母さまのような笑みを浮かべた。
「あのね、拓海君と私の赤ちゃんがいるの、ここに」
「!!」
そういって嬉しそうに頬を赤く染めて俺を見つめる明日香ちゃん。
俺は思わず立ち上がって両腕を天上に突き出した。
「やったぁ!!!」
嬉しくて、幸せで。
どうにかなってしまうんじゃないかってぐらいに、俺は何度も叫んだ。
「た、拓海くんってばぁ」
「明日香ちゃん!!」
俺は嬉しくて明日香ちゃんを抱きしめた。
本当はギュッと力いっぱい抱きしめたかったけど、お腹の赤ちゃんがびっくりするといけないから。
愛しい存在の二人を優しく包み込んだ。
「ありがとう、明日香ちゃん」
「拓海くんが喜んでくれてよかった」
「あたりまえだろう? 嬉しくて、どうにかなりそうだ」
興奮気味の俺に、嬉しそうに笑って目じりに涙をためた明日香ちゃん。
俺はそっと明日香ちゃんの頭をゆっくりと撫でた。
明日香ちゃんは、ふぅと小さく息を吐いた後、泣き笑いをして俺を見つめた。
「拓海くんなら喜んでくれるだろうなぁって思っていたけど……迷惑に思われたらどうしようかって……すごく心配だった」
そういって俺の体をギュッと抱きしめてきた明日香ちゃん。
きっと妊娠したということを俺に告げるには、かなり悩んだことだろう。
小さな体で、きっと色々心配していたに違いない。
俺はそっと明日香ちゃんを抱きしめた。
俺がもっと早くにプロポーズをして、結婚して、籍をいれていれば。
こんな風に明日香ちゃん一人で心配させなくても済んだのに…。
俺は、明日香ちゃんの耳元で、ごめんと呟いた。
「明日香ちゃん一人に悩ませてしまってごめんな」
「拓海くん」
「もっと前からプロポーズしようと考えていたのに、なかなか言い出せなくて。早くにプロポーズしていたら、こんなふうに明日香ちゃんを一人で悩ませることはなかったのにな」
「……ふぇっ」
明日香ちゃんがギュッと俺の服の袖を握って、嗚咽をあげた。
俺は抱きしめていた腕を緩めて、明日香ちゃんの顔を覗き込んだ。