夏と秋の間で・甲
「それじゃあ、またね。」



 玄関のライトが反射して影しか見えない、早月さんの家から本人と思われる声が聞こえる。



「あぁ、またな。」



 それに返事を返す、男の声。



 ・・・・・・・・どこかで聞いたことのある声だった。



 ・・・・・・・・・・・最初の違和感・・・・・・。



 自分の耳に絶対の自信があるわけではない。



 もしかしたら聞き間違いだろう。



 ・・・・そうでなければならない。



 しかし、早月さんの家の玄関と柵一つでしか隔てられていない、望巳の家の駐輪場はそこから残酷な風景を映し出す。



「・・・・・・早川先輩?」



 声をかけたのではない。



 ただの独り言だった。



 しかし・・・それでも・・・・



 ・・・・やっぱり・・・・声に出すべきではなかった・・・。



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