夏と秋の間で・甲
「こんばんは、望巳くん。」



 先輩が去った後、見計らったかのように、・・・いや、実際に見計らってなのだろうが、早月さんが声をかけてきた。



 はにかんだような笑顔を向ける早月さん。



「ああ。」



 それに対して、望巳は目を合わせないまま返事を返す。



 正直、話をする気にはなれない。



 握り締めたまま行き所のなくなった拳は、未だポケットの中でくすぶっているのだ。



「早川先輩と知り合いだったんだ・・・。」



「まあな・・・。」



 とりあえず、なんとか落ち着かせるためにポケットからタバコを取り出して火をつける。



 星のない曇り空の夜の元、望巳の口から紫煙が上がり闇へと消えていく。



「そう・・・だったんだ・・・。」



 目線をそらし、顔をうつぶせる早月さん。



 ・・・・・気まずい。



 彼女の顔がそう言っていた。



 しかし、望巳からしてみれば、そんな事知ったことではない・・・・。



 だから・・・なんだというのだ・・・・。



「まぁ、だから何だということもないけどね・・・。それじゃあ、俺これから夕飯だから・・・。」



 これ以上、早月さんと話す気にはなれない。



 もう、どうだっていい・・・・早く、夕飯でも食べて寝てしまいたい・・・。



 こんな悪夢・・・うんざりだ・・・。



「え?望巳くんご飯まだだったの?・・・・だったらこれからどこかに食べに行かない?」



 しかし、早月さんの口から漏れる、突然すぎる提案。



 ・・・・冗談。



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