夏と秋の間で・甲
「ところで、アヤたんうちなこの前めっちゃ怖い話聞いたねん?」



「お、おぅ、ホンマにいきなり入るな。・・・ンでどないな話を聞いたんや?アキたん。」



 ・・・・・・・・・・・・・・なんで、関西弁なんだ?



「あんな、浦島太郎って漁師が亀に無理やり海底に拉致されてな、乙姫って名前のいかにも危なかしげな格好した姉ちゃんに、不思議な箱渡されて、戻されるんやけど、その箱開けた途端、浦島太郎はおじいさんにされてしまうねん。」



「・・・・・・それは、話の内容が少し違う気がするが、もろ「うらしまたろう」やな?」



「そう、それや。アヤたん知ってんのか?」



「そりゃ・・・日本人やからな?」



「めっちゃ、怖い話や思わんかったの?」



「いや・・・童話やで。」



「でもな、浦島太郎はいきなりおじいさんにされられるんやで。漁師なんて自営業やから、国民年金も入っているかどうかも分からんし、家族もおらへんから孫に養ってもらえるかどうかもわからん。」



「いや・・・・せやから、何度も言うけど童話やで、アキたん。そないなこと言ったら、かぐや姫がいなくなった後のお爺さんお婆さんは誰が養ってくれたねん?」



「子供が読むような童話に、そないな野暮なケチつけたらアカン!」



「お前は、さっきからそれをやってるンやろう!!」



 亜紀と綾子さんの漫才はよほど練習したのか、テンポもよく、会場をどっと沸かした。



 最初は絶対に笑わないだろうと考えていた望巳も不覚にも彼女たちの漫才は面白いと感じてしまった。



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