夏と秋の間で・甲
「だって、泣いてる・・・。」



「え?うそ!」



 言われて、大場さんは始めて気がついたらしく、自分の瞳のしたあたりに手をつける。



「ホントだ・・・。」



 声と同時に再度、涙がこぼれた。



「あれ?・・・どうして・・・。」



 言葉とは裏腹に一度こぼれ出した涙は止まらない・・・。



 マズイ。



 望巳はあたりを見回す。



 通行人が多い渡り廊下。



 案の定、歩く人たちの多くがこちらを見ていた。



 あれは、同じクラスの山口だ。・・・あ、あっちにも知ってる顔がいる。



「大場さん。とりあえずこっち着て。」



 望巳は大場さんの手を引っ張ると、一目散に早歩きを始めた。


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