夏と秋の間で・甲
「悔しいよ・・・本当に悔しいよ・・・。」



 大場さんの嗚咽に混じった言葉は続く。



 早月なのは。



 今年になって転校してきて、男たちを手玉に取り、終いには友達の彼氏と知っておきながら先輩を奪って行った。



 彼女はそうするしかなかったと言った。



 そうするしか、不幸の連鎖から抜けられる道はないと言った。



 だけど、望巳は思う。



 ・・・・・今、ここで彼女が泣いていて、本当にそうだったのだろうか・・・と。



「ごめんね、斉藤君。ほんとに軽蔑してくれていいから・・・・。浅はかな女だと思っていいから・・・。」



 そう言う大場さんの声は、ようやく落ち着いてきたのか、ハッキリと聞きやすい言葉に代わっていた。



「大丈夫だよ・・・。俺は大場さんのコト大好きだから・・・。」



 ごく自然に言葉が出た。



 それは、1年越しに伝えることができた愛の告白。



 おそらく彼女に伝わることない言葉。



 そして、自分の中でも・・・・・・・。



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