夏と秋の間で・甲
「早月さん。とりあえず後ろ乗って。」
思わず、ため息交じりに、スクーターの後部座席を叩く。
「え?」
「このままじゃ、遅刻するだろう?乗せてってあげるよ。」
「えぇ!・・・でも、私ヘルメットないよ。」
それより、スクーターの二人乗りの時点でアウトなのだが・・・。
「裏道使って見つからないように走るから大丈夫だよ。だから、乗って。」
「・・・・・・うん。それじゃあ、お願い。」
一瞬、ためらった後、他に手段はないと判断したのだろう。
早月さんは、恐る恐る自分のバイクの後方にまたがると、自分に身体を寄せ付けた。
(早月さん意外に胸あるな・・・。)
そう考えてしまうのも、ある意味この年齢の男子なら仕方ないことだろう。
「それじゃあ、行くよ。」
「うん。安全運転でよろしく。」
一応、レディファーストの精神で、早月さんにヘルメットをかぶせると、自分は頭むき出しのまま、スクーターのエンジンを始動。
学校まで一気に飛ばす。
女性を後ろに乗せてバイクを走らすのだ。
正直、誰にも見られなくないと願ってみたが、場所が悪かった。
「あれ?なのはに、斉藤君?」
学校近くにある公園の駐輪場にバイクを止めて、降りた瞬間、突然後ろから声をかけられる。
女性の声。
顔を向けると、そこには一番会いたくないと思っていた女性がいた。
「あ・・・大場さん。」
思わず、顔が引きつる・・・。
これじゃあ、本当に10年以上前の少女漫画じゃないか・・・。