夏と秋の間で・甲
「ちょ、ちょっと、お母さん何言ってんの?望巳はそんなんじゃないから・・・。」



 亜紀は予想に反して早々と出てきた。



 深い帽子をかぶっているあたりに、彼女の苦肉な苦労を感じられる。



「なんだ、早いじゃないか?」



「急いだんだよ。・・・いいから望巳、外行こう。」



 慌てて、階段を下りながらまくしたてると、亜紀は望巳の手を取り、手ごろな運動靴に足を通す。



「え?おい・・・・。」



 俺は別にここでも・・・と言おうとして。



「ンじゃ、お母さんちょっと出かけてくるから。」



 先を越された。



「ハイハイ・・・お父さんには内緒にしといてあげるから、早く帰ってくるのよ。」



「分かってるよ!」



 亜紀は扉を開け、望巳を引っ張るように外に出る。



 走るように、家から離れて・・・。



< 205 / 221 >

この作品をシェア

pagetop