夏と秋の間で・甲

「好きだよ・・・望巳。」



 突然、亜紀が耳元でささやいた。



「あぁ・・・俺も好きだよ亜紀。」



 何の意識もせずに、自然と口から漏れる言葉。



「え?今、なんて言ったの?」



 顔を眺めるように、不思議な表情を向ける亜紀。



「いや、何でもない・・・。」



 一応、ごまかしてみるが・・・。



「ウソ!!今、絶対聞こえた・・・「好き」って言った。ねぇ、言ったでしょ?」



 聞こえてるじゃねぇか・・・・。



「言ってねぇよ。」



 今更見栄を張ったところで、手遅れ。



「ウソだ~。ねぇ、もう一回言って、もう一回!!」



 身体に体当たりするように、亜紀が自分を揺らす。



「あ~、うるさい、うるさい!!」



 サンマの身体を振り払って逃げるように走り出す望巳



「あ、待て!もう一度言え!!このヤロウ!!」



 それを、笑顔で追いかけだす亜紀。



 いつもと何も変わらない雪が降る午後。



 付き合っていない二人の男女が、とっても幸せな、二人だけの時間を楽しんでいた・・・。


終わり
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