夏と秋の間で・甲

「なんだ・・・やっぱり、斉藤の耳にも届いていたか?俺が太刀魚さんにふられたこと。」



「・・・ええ、学園内では有名でしたから・・・・。」



 隠す必要はないという判断の上での言葉。



「ああ、確かに俺は太刀魚さんにふられた。今は全然違うやつと付き合っている・・・。大場奈津って、確か斉藤と同じクラスだったよな?」



 胸が痛くなるような質問。



 でも、先輩は何も知らない・・・悪気はないのだ。



「はい、あまり親しくはないですけど・・・・。」



 この質問に対してはできれば、嘘を尽きたかったが、できるはずもない。



 少し声が震えたのが、自分でも分かった。



「別に、奈津が悪いってワケじゃないんだ・・・・。ただ、これは俺の問題でな。どうやら、俺はまだ太刀魚さんのことが振り切れていないらしい・・・。」



「先輩!」



 思わず、張り上げた声が出た。



 許せなかった。



 そんな軽い・・・優柔不断な気持ちで自分の最愛の人が奪われたなんて・・・・。



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