夏と秋の間で・甲
「そ、そうなんだ・・・。」



 できる限りの平常を保った声で返事をする。



 正直、自分が好きな人が他の男の話をしていて、ソレを聞かなければならない情況というのは、とても辛かった。



 でも、ここで逃げ出すわけには行かない・・・・。



「だけど、私『ソレでもいい』って言ったの。すっごい先輩のことが好きだったから、たとえ、他の人のことが好きでも、傍にいられるだけでいい・・・って。」



「・・・・・・・・」



 返す言葉がなかった。



 大場さんは、ソレほどまでに先輩のことが好きなのかと思うと、胸がはちきれそうになった。



「ソレにね。うぬぼれてたわけじゃないけど、先輩を振り向かせる自信はあったんだ。3ヶ月もすれば、絶対先輩は私のことを好きになる・・・・って。」



 切なそうな大場さんの声。



 一瞬、後ろから力いっぱい抱きしめたい衝動に駆られたが、必死にこらえる。



 こんなにか弱い女性をほっといて、なんで先輩はサンマなんかに走るんだ・・・。



「なのに、今日の遊園地でそんな自信もどこかいちゃった。私、まだ先輩の家に行ったことないんだ。それだけじゃないよ。手をつないだことも・・・キスだってマダなんだよ。」



 震えた声を出す大場さん。



 見なくても、彼女の眼が潤んでいたのが分かった。



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