夏と秋の間で・甲
「・・・俺も、別れないほうがいいと思うよ。」



 ・・・・あんな男、さっさと別れてしまいないなよ。俺がずっと着いていてあげるから。



 そんな、軽い言葉が言えたらどんなに楽だっただろう?



 しかし昨日の大場さんの泣き顔が脳裏によぎって、余計な事を口にできない。



「どうして?」



「大場さんの顔・・・・・・。別れたくないって顔している。」



 もちろんそんな顔分かるはずもないから、適当に言っただけだ。



「私は、そんな・・・・。」



「分かるよ。そうでなければ・・・・そうでなければ、あんなところで涙なんて流さないよ!」



 自然と声に力が入った。



 言っていいのかどうか悩んだが、どうしても口する必要があったような気がしたのだ。



 たとえ、他の男が好きでもかまわない・・・。



 やっぱり、自分は大場さんには幸せであってほしい・・・。



< 91 / 221 >

この作品をシェア

pagetop