月天使
この時見ていた夏美は幻だったのかもし
れない。彼女の小さな変化に気付いてやれ
ないまま、季節は過ぎ、秋に移り変わった。
「うーんっ秋だね!!紅葉が綺麗*」
夏美はゆっくりと伸びをした。
俺は内心ホッとしていた。
<山登りに行こう>なんて言ってたもの
だから夏美に退屈させてしまうのでは
ないかと思っていた。
でも彼女の喜ぶ顔が見れて良かった。
「やっぱ、苦労して頂上まで来ると
ご褒美が待ってるってもんだな♪」
回り一面が紅葉に囲まれていて
美しい景色にうっとりする。
俺は思わず夏美に笑いかけた。
すると、夏美は
「ナニそれ~!でも陸が言う
通りなのかもしれないね…。」
地面に落ちていた紅い葉を拾って
夏美は悲しそうに空を見上げた。
「…どうした?夏美。」
何だかさっきまでの笑顔とは
全く違う。いつもの夏美じゃないな。
「えっ?あっ…ごめんね。
何でもないの♪さっ、行こ!!」
少し慌てたように言ったが
彼女の悲しい顔がすぐに消えたから
俺の心は<良かった>の一言で満たされた。
だけど、俺達が付き合いはじめて
半年がたったこの日、夏美の笑顔に
不自然だという感覚を覚えた。
今までにあんなに慌てて無理矢理
笑うことなんてなかったのに…。