誰かの為のラブソング

オーディエンスは一斉にその異変に気づき、振り上げていた拳を下げた。


唄うのをやめたユウにつられるようにリズム隊は演奏をフェードアウトさせ、終いには演奏を やめてしまった。


しんと静まり返る
ライブハウス。


カメラのアングルはしっかりと真っ正面を捉えようと体勢を変えた。


「…わりぃ。
ちょっと待って。」


少し斜めに高いマイクスタンドのマイクを握り、ユウはそれを真っ直ぐに直すと、ゆっくりとギターの方へと歩み寄った。



「ユウ!!」


オーディエンスの1人がユウを制止するように名前を叫ぶ。

男の野太い声だった。

その瞬間、ギターのメンバーの胸ぐらを掴んだままユウはステージから姿を消した。


ざわつく場内。


カメラのアングルはユキを捉えていた。


髪を掻き上げ、ユキはステージに向かって背を向けた。


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