誰かの為のラブソング

「でさ、中村がムチャ焦ってさ。
俺じゃないっスよ〜って、
もう必死なわけ!」

「あははっ!」


彼女の心の底からの笑い声と共に理久との距離が段々と短いものになってくる。


愛香の強張った表情が手に取るようにわかった。


「……………。」



「それでさー…」


すれ違い様にちらりと理久の視線がこっちに向いた気がした。



「実は触られたっつって言ってきたのがオヤジだったわけ!」

「え〜!!」

「んで一気に痴漢の疑いから、あっちの疑いに変わって、
みんなビビってんの!」

「あはははっ」


理久と彼女は何事もなく会話をし続けながら、リズと愛香の横を通り過ぎた。



「………………」



何故だか胸が締め付けられるように痛かった。


「…但馬の奴。
なんかリズに言うことあるじゃん。
なんか避けてるよね。」


場の空気に人より敏感な愛香は リズの気持ちを思い、怒り任せせに言葉を並べた。



「……………」


愛ちゃん…

あたしのことなんか、
どうだっていいよ。




一番誰よりも辛いのは


愛ちゃんだってこと、


あたし…


わかってるんだよ…?



リズはいたたまれなくなり唇を強く噛み締めた。


やりきれない気持ちを悟られまいとリズは何気なく振り返った。


渡り廊下に微かに響く生徒達の笑い声と共に、理久の背中はどんどん遠ざかっていく。


その距離の遠さにもどかしさを感じてリズは仕方がなかった。







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