誰かの為のラブソング
それから彼女は意識を取り戻した。
見慣れない風景に戸惑いを隠せないようだ。
「…気がついた?」
理久の言葉にも彼女は反応しない。
「…校舎の前で倒れてたから
保健室に連れてきたんだ。
大丈夫か?」
まだ熱があるのか彼女の頬は、ほんのり紅潮していた。
「……すみません…」
彼女は俯いた。
「まだ熱あるみたいだから、
先生が親、呼んできてくれるから…」
「…式…もう終わりましたよね…
」
「?あ、ああ…」
とっくに時刻は夕方を差していた。
理久は校舎に向かって一生懸命走る彼女の姿を思い出していた。
「…何で?」
「えっ?」
「……何でそんなに式にこだわるんだよ?」
理久には理解しがたかった。
彼女の表情を見てから、触れてはいけないことだったと理久は少しだけ後悔した。
「あ…答えたくないなら
いいから。
別に……」
関係ないんだから。
色々詮索する理由すらないのにな。
「…物凄く…
勉強して受かった高校だから…
この日を待ち侘びてたから…」
どうりで見掛けない顔だと思った。
彼女は高校から受験して入学してきた編入生だった。
「だから、体調悪いのに無理に来たのか?
式なんてどうでもいいだろ…」
不意に理久の本音が出てしまった。
彼女は豹変したかのように声を張り上げた。