誰かの為のラブソング

「あおい、お友達かい?
見掛けたことない子だね」

不信感丸出しの老婦人の視線が痛かった。

「……………」

彼女は理久の姿を見ても無反応だった。


当然だよな、普通覚えてないよな。


でも彼女は思ったより全然元気そうで理久は安心した。


「…これ、担任に頼まれたんだ。」


提出物の封筒を彼女に渡すと理久は一歩後ろに下がった。


「あおい…お友達かい?」


老婦人はじっと理久を見つめていた。


「おばあちゃん…ちょっと外で話すね…ごめんね…」


彼女は優しく宥めるように謝ると玄関から外に出た。


「…ごめんなさい… 」


彼女は謝った。


「…いや…」


なんで謝るんだよ。


「あのさ…俺のこと覚えてないかもしれないけど…

元気そうでよかったよ…」


彼女の表情は何だか雲っていた。

「いえ…
ありがとうございました…」

「え?」

「保健室…連れて行ってくれて…
お礼も言わず、今までごめんなさい…」

なんだ、ちゃんと覚えていてくれてたんだ。


何だか凄く安心した自分がいて理久は安堵の息を吐いた。


「お礼なんて、たいしたことしてないし…

それより…また学校来いよな」

「…え?」

「まだ一度も出席してないだろ?
俺、同じクラスだから」

自分で言いながら自分に突っ込んでいた。

同じクラスだから何だってんだよ。

ほら、彼女、戸惑った顔してるじゃねぇかよ。

なんだ?

みるみる内に彼女の表情が雲っていく。

「……あ、ほら。
あんなに式に出たがってたじゃん。
休んでたら意味ないし」

彼女を元気づけようとしたのに逆に彼女は表情を無くしていく。
彼女の心に土足で踏み込んだのかもしれないことに今さら気づいた。


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