誰かの為のラブソング
「あなた…毎朝、迎えに来てくれてる子よね?」
中年の上品そうな女性が理久に突然、話掛けてきた。
その女性の傍らには可愛い小型犬が立っていた。
「え?…」
「私、リズの母親です。
少し、いいかしら?」
まだそうだとも名乗ってもないのにその女性は話を先に進めた。
俺が知らなくても向こうは見てわかってたのかよ…
理久はとてつもなく恥ずかしい気持ちに襲われた。
「…毎朝、リズの為に来てくれてるのはありがたいんだけど、
今はあの子をそっとしてあげていて欲しいの… 」
言葉の端々に苛立ちを覚えているような言い回しに少し違和感を抱いた。
「…何で、ですか?」
意味がわからなかった。
「…今は、学校に行かなきゃいけないということがあの子のストレスになってるからなの…
悪いけど、これ以上あの子を追い詰めないで欲しいの」
追い詰める?
俺が?
「…そんなつもりじゃ…」
理久は今まで自分がしてきた行動を思い出しながら呟いた。
「……あの子は心の病を持ってるの。
不安になると発作が起きて、入学式の時みたいに倒れてしまうの…
今もまた度々発作が起きるから、あの子は怖くて学校にも行けないのよ…」
理久は耳を疑った。
あの入学式のは発作だったのか…?
「…じゃ…いつになったら学校に来れるんですか…?
あんなに具合悪くても式に出ようとしてたのに…」
脳裏に、あの時の彼女の言葉が過ぎった。
「…誰よりも喜んでくれた親の為にどうしても出なきゃって、必死だったのに…
このまま、その発作のせいで努力して入った高校を諦めるってことですか?」
きっとこのまま彼女を放っていたら、確実に高校を辞めてしまう気がした。