誰かの為のラブソング


「お兄ちゃん!
パスー!」

CF(センターフォワード)の小学生が高く手を上げた。

「パスっ!」

何度も呼ぶ掛け声に理久は我に返った。

久しぶりのゲームの感覚に理久は戸惑っていた。

足元に渡ってきたボールの感触が妙に懐かしかった。


…大丈夫だ、
きっと、いける。


理久は流れに沿うように自然とスワービングからパスに入った。
ボールに回転を与え軌道を曲げるとパスは思い通りにストライカーの元へ辿り着く。
ディフェンダー達はその弾道に釘付けとなった。

「うわぁ!」

何とかパスを身体全体で受け止めるとCF(センターフォワード)はシュートの体制に入った。


「行け!!」

理久は思わず叫んだ。

ストライカーが放ったボールは遠く遠く空に伸びる。
それはとても綺麗なラインを描きながら力強い弾道を作り上げた。

ボールは少年の強い思いを乗せてゴールネットに突き刺さった。

「やったぁああ!!」

ストライカーの小学生は理久に飛び込み抱き着いた。

「お兄ちゃん!やったぜ!」


「…スゲェよ、
やれば出来るじゃん」


抱き合いながら二人は喜んだ。


「…お前、いいストライカーだよ。
レギュラー絶対なれるさ」

「ホント?!
俺、絶対レギュラーなってみせるよ!
頑張るよ!」


「…ああ」


理久は少年を優しい眼差しで見つめた。

この少年は昔の自分だ。
ギラギラして、無我夢中だった 幼い頃の自分。

無限の可能性を信じて疑わなかった自分。

何よりもサッカーが大好きだった自分。



「お前…
サッカー、好きか?」



少年は額から垂れ落ちる汗を拭い去ることもなく、真っ直ぐに理久を見据えてこう言った。



「うん、大好きだよ。

サッカー楽しいもん!」



少年はありったけの笑顔で微笑んだ。


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