誰かの為のラブソング
もうすぐ夜明けが訪れようとしていた。
深い闇が力強い光に染まりつつある頃、東の空には消え残った明星が僅かに光輝いていた。
「…………」
まだ目が覚めていない街は静寂に包まれ、空気はしんと張り詰めている。
遠くから微かに新聞配達のバイクのエンジン音だけが鳴り響く。
彼女は徐に足を止めた。
彼女の足元にいるコーギー犬は異変を嗅ぎ分けたのか、激しく吠えはじめた。
「……………あっ…」
こんな早朝に、しかもこんな場所で出会うはずのない人物が目の前に現れ、リズは驚いた。
警戒心を増したコーギーは、より一層声を荒げる。
「静かにして、ラブ」
リズはコーギーを抱き抱えた。
「…朝、早くにごめん。
今じゃなきゃ会えないと思ってさ…」
制服姿の理久は申し訳なさそうに言葉を並べると、リズは頭を横に振った。
「…あたしもこんな時ぐらいしか外に出ないから…」
あれから彼女が登校しないまま一ヶ月が過ぎようとしていた。
彼女の母親に偉そうなことを吐いたはいいが、正直あれから彼女に会いに行くことを躊躇していた。
一体、何が出来るっていうんだ?
彼女に近づくことは、彼女の心に踏み込むことになるんだ。
それによって、嫌われることが何よりも怖かった。
でも…
放ってはおけなかった。
どうしても。