誰かの為のラブソング


「…そんなことないよ。
ただ、あたしは…」


「おーい!樫本ー!」


リズの背後から大きな声が上がったかと思うと、突然二人の間に教師の上田が割り込んできた。

「但馬見つかったか?
アイツ結局、サボりやがった、

…お、川嶋っ」

上田はリズの姿を見つけると、ぽんっと肩に優しく手を置いた。

「…そーいや、お前に言わなきゃいけないことがあってだな…」

息を切らしていた上田は呼吸を整えようと静かに息を吐いた。

「…不登校の二人、
今井と神志名の件だけど、
あれ、なかったことにしてくれ。」


「え!」


そう声を上げたのは愛香の方だった。

「いや、先生、ちょっと思うことがあってな。
あいつらのことは俺が何とかする。
今まで…無理を頼んで悪かったな」

上田先生は少しだけ笑うと申し訳なさそうに丁寧に言葉を並べた。

「うっそ!上ちゃん!
そうなったら、もう接点なくなるじゃん〜!

なんでよっ〜!」


「あ、愛ちゃんってば!」


「あ〜やかましーわ、樫本っ!

とにかく、近々生徒会の運営方針が変わる予定でな、
何かと学級委員の仕事も増えるようになるんだ。
そっち力入れてくれよな」


「………はい…」


「ちょっと待ってよー!
上ちゃん!
あたし楽しみにしてたんだからっ〜っ!
今井友喜もイケメンだったから、絶対片割れもイケメンだって、超期待してたんだけどっ!

これじゃ、もう会えないじゃん!」


「あーもう、何抜かしてんだ!
っお前はっ〜」


纏まりつく愛香を尻目に上田はシッシッと追い払う。


「上ちゃ〜ん!
そう言わずにあたし手伝うからさ〜」

「お前な〜しつこいわ〜」


リズは軽く溜息をついた。

二人の掛け合いを眺めながら、リズは何故だか少し肩の荷が下りた気がした。



今井友喜。


彼は昔を思い出させる人。


できることなら、
もう関わりは避けたい、


リズは彼の事をそう思っていた。







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