誰かの為のラブソング
「おばあちゃん、
来たよ…」
一日中ベッドの上で過ごしている祖母は、聞き慣れた声を聞いた途端、差し出したリズの手をギュッと握り締めた。
「あおい…
よう来てくれたね…
もっとよく顔を見せて…」
「…うん。
おばあちゃん、
私、目の前にいるよ。」
リズの差し出した手を祖母は一時も離さない。
「お迎えに行けなくて
ごめんなさいね…
保育園までは遠すぎて、歩いては間に合わなかったよ…。」
「ううん、いいの。
ママが迎えに来てくれたから、おばあちゃん気にしないで。」
「ごめんなさいね…
あおいに寂しい思いをさせてしまってごめんなさいね…」
俯いたまま、リズの握った手を一生懸命さする祖母は何度も何度も謝った。
「おばあちゃん、
いいんだよ…
気にしないで…」
優しい眼差しは昔と全く変わっていない。
今も一番に
思ってくれている。
「あおい…
あおい…」
祖母はいつの間にか全てを忘れてしまっていた。
息子の名前も
その息子の嫁の名前も
ゆっくりと刻む
今という時間も。
あおい、という人間は
もういないということも。