こんな日もあるさ
◆帰巣本能

駅前は人影もまばらだった。

音楽もアナウンスもざわめきもない。

ただ、空だけが妙に高い気がして、上を見上げた。

まるで違う世界に来たようだ。


道に迷ったりしたが、何とかホテルの部屋におさまり、バッテリー切れの電話をコンセントにつないだ。

( ̄△ ̄;)か…顔を洗わせてくれ

歯ブラシをくわえながらテレビをつけると、津波注意報が出てた。

そして、福島原発の事故のニュース。

Σ( ̄ロ ̄lll)はぁっ?

何? 燃料棒全部露出って――あんた馬鹿?

原発は安全だったんじゃないのか?
耐震装置はどうした?
制御棒は何故下りて来ない?

次に来るのはメルトダウン。
こりゃどこか吹っ飛んでも不思議じゃない。
また交通機関が止まったら?

――っていうか、だいたい何で北海道に帰りゃいいんだよ!

愛機のバイブが鳴った。
メールだ。
娘だ。
何通も入ってる。
山形までバスが通っている?
山形から新潟へ
新潟から北海道までのフェリーがある?

バス会社に電話をかけてみたがつながらない。
母をホテルの部屋に置き、直接、駅近くのバスセンターまで歩いて行った。

『今日は山形行きのバスが出ていますが、明日は道路状況によって出ないかもしれません』

その時すでに夕方の6時。

タクシーでボーズを迎えに行って、ホテルに戻って支度をすれば8時台のバスに乗れそうだ。

山形まで行っても宿がある保証はない。

( ̄ー ̄ )帰ろう

野宿してでも帰ろう
駅かどこかに夜を明かせる場所があるはずだ

山形まで行くんだ


腹をくくって夜のバスに乗ることにした。
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