そばにいて。

―――息が、止まる。

ドクンドクン、と心臓が脈を刻むのが早くなる。見開いたままの瞳には、幼馴染みしかうつらない。

駄目だ、逃げなきゃ。二人から見えない場所へ、ほら、

脳は活発に動くのに、どうしても体は硬直したまま。地面に縫い付けられたように、思い通りに足が動かない、


ひんやりと冷や汗が流れる、今は5月だってのに。

そんなことを考えながらも、幼馴染みから視線は外さない、いや外せない。
まるでスローモーションのようにゆっくりと二人が歩くのを、歪んだ顔で見つめる。

そのとき、
「…ッ、」

今まで俯いていた視線をおもむろに上げた泰治と、視線がかち合う。バチリ、そんな効果音が似合うような。

―――逃げて、

「ちょっ、真香!?移動教室アッチだよ!?真香!?」


後ろでクラスメートが叫ぶ声が聞こえたが、振り向かない。ただただ、走る。

どこへ行けばいい?
泰治達は、ついてきていない?


ぐるぐる回る思考を掻き消して、廊下を走り抜ける。

何事かと、私を見る生徒の視線が痛いが構いやしない。
生温い風が、私の体にぶつかる。それすらも無視して、ただ走る。

―――私は、弱虫だから。

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