君にすべてを捧げよう
余りにもはっきりと言うので呆れてしまう。
顔が真っ赤になるのを自覚しながら言うと、憎らしくもくす、と笑われた。


「何を言ってるの? 揺らしてるんだよ、俺は。
ぶっちゃけ、弱みに付け込んでいます」

「な、何を堂々と……っ!」


その確信犯ぶりに、顔を見た。目をみて、苦情を述べたかったのだ。
だけど、それも読まれていたらしい。

目が合った瞬間。
に、と笑った鏑木さんは、あたしの口を塞いだ。

深く、重なる唇。
抱きしめていた腕は一層の力を込めていた。


「な……」


たっぷりの時間をとって、唇が離れた。
と思えば、啄む様なキスを繰り返す。
唇が、鏑木さんに少しずつ削り取られていくようだった。
痛みはなく、柔らかな疼きだけを伴って。


「や……。鏑木さ……、止めてくだ、さ……」

「ハイネは防御が甘いんだよね……。
涙の痕くらい……、隠してきなよ……」


鏑木さんの言葉が、あたしの中に吸い込まれていく。
繰り返されるキスが、頭の芯を麻痺させていく。

乱暴に押し入って来るのではない、ゆっくり浸透してくるキス。


どうしてあたしは、この人のキスを受け入れているのだろう……。



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