君にすべてを捧げよう
「ね? そろそろさ、俺に大人しくたぶらかされようよ」


ぺろりと、唇を舐められた。
その言葉にぞくりとする。
胸に響く。

誰かに、こんな風に求められたことなどなかった。
鏑木さんは、あたしを大事にしてくれると言う。
それは、幸せなんじゃないだろうか。

だって、この人に応えたら、きっとこうして優しく抱きしめて、頭を撫でてくれる……。

逡巡している自分がいた。
ぐらぐらと揺らぎだした心に、鏑木さんは言葉を重ねる。
酷く響きのよい、囁くような声で。


「好きだよ、ハイネ。君が好きだ」


最後の堤防が崩されて、決壊する。
口が勝手に、付き動かされるように動いた。


「……されます」

「ん? なに、ハイネ」

「鏑木さんに……たぶらかされます」


震える声で言えば、鏑木さんはにこりと笑った。


「よかった。でも安心して、本気だから」


今度は深く、唇が寄せられた。


「付き合ってくれる? 返事して」


キスの合間に問われて、「はい」と答えた。


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