君にすべてを捧げよう
寝返りを打てば、抱きしめられる感覚があった。
強い腕。頬に触れる、さらりとした肌。

誰だろう、こんなことするのは。

夢の出口でぼんやりとしていたあたしは、とろりと瞼を持ち上げた。
男の人の広い胸が、目の前にあった。


「ん?」


瞬きを繰り返して視線を上げて見れば、穏やかに眠る智の顔があった。


「あ……、そう、か……」


数時間前に、ずっと見つめていた顔。
そうだ、あたしは智と夜を過ごしたんだった。

普段では考えられないくらいに乱れた自分を思い出し、赤面する。

堪らずに俯けば、躰にはたくさんの花弁が散っていた。


「わ……すご……」


こんなにも痕を残さなくてはいけないものなんだろうか。
経験がないのでよくわからないけど、痕跡を残すことに意味があるのかな、


「あ、と。とにかく、朝食の支度をしておかなくちゃ」


差し込む光の加減からすると、随分寝過ごしてしまったようだ。
智を起こさないようにそうっと布団から這い出して、客間を出た。


朝食の支度を終えた頃、ガタリと音がした。
客間から、むう、と頬を膨らませた智が出てくる。


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