君にすべてを捧げよう
瑞穂さんの目が、後ろにいる智に向けられた。


「あら。もしかしてそちら、彼氏さん?」

「……はい、そうです」

「どうも、鏑木です」


鏑木スマイルで答える智に、瑞穂さんはふ、と笑った。


「初めまして、佐伯です。優しそうな人ね。めぐるちゃん、よかったわね」

「ええ。ありがとうございます」


自分の声に棘があるのを感じる。
ダメだ。
どうしてもこの人には敵対心しか持てない。

なのに、どうして蓮はこの人を選ぶの。


「あ、そうそう。蓮が言ったと思うけど、お世話は不要なので、無視して頂戴ね。
あの離れ、便利なのねー。お風呂まであるんですもの」


使ったのだろうか、もう。
下卑た想像をした自分を、瞬時に嫌悪する。

ダメだ。もう関係ないんだから、気を取られたらダメ。

精一杯の笑顔を作って、頷いて見せた。


「わかりました。じゃあ、何かあった場合は母屋に声かけて下さいね」

「ええ」

「瑞穂ー!」


離れから、蓮の声がした。


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