君にすべてを捧げよう
「なんて……馬鹿みたい……」


もしもの話なんてしても、今は変えられないのに。


ふ、と目を開け、テーブルに置いたままだったノートを取り上げた。
蓮の文字をなぞる。


美恵さんが亡くなってもう6年、まだ6年。


一度は死んだ蓮の心は、6年の時を経て、今ようやく新しい一歩を踏み出したのだろう。
捨ててしまった作家としての自分を取り戻す気になったのだから。

蓮は、進み始めたのだ。己の力で。


過去に、捨てた想いに囚われているのはきっと、あたしだけ。


「がんばってね、蓮……」


そっと、呟いた。



< 177 / 262 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop