君にすべてを捧げよう
「明日は休みだし、いいけど。でも、何かあったの? もしかして本店に移動とか?」


智は二号店に移動になった際、こちらに引っ越してきた。
車で一時間半の移動を毎日続けるのは厳しかったからだ。

また本店に移動、ということになればまた向こうに部屋をみつけるだろうし、そうなれば会える回数もぐんと減ってしまうかもしれない。


「や、移動とかじゃないよ」

「じゃあ、なに?」

「それを、夜にね」


すいと近づいてきた智は、頭のてっぺんにキスを落とした。


「わ。酢昆布くさ」

「うそ! そんなことないし!」

「あはは、怒った。じゃあ、行って来るね」


智が頭を撫でて表に戻ろうとすると、ドアが開いた。
髪をキャラメル色にしたばかりの馬渡くんがひょこりと顔を出す。


「鏑木さん、オーナーみえました!」

「はーい。じゃあハイネ、後よろしく」

「あ、はい。いってらっしゃい」


ひらりと手を振って、智は行った。


「何でしょうねー、オーナーとの話」

「さあ……?」



それから、予約の十分前になるまで、智は戻ってこなかった。


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