君にすべてを捧げよう
「どれだけ自分を騙そうとしても、やっぱりこいつだけは譲れないんだ」

「坂城……、さん?」

「プロポーズさせてもらった。めぐるに、選んでもらいたい。その権利をめぐるに与えてもらえないだろうか」


額を地面にこすり付けて、蓮が言う。
こんな姿、知らない。
こんなことする蓮を、知らない。


智が、あたしを見た。
きっと、酷い顔になってる。
涙で浮腫んだ顔を化粧で誤魔化して、それはきっともう剥げ落ちている。
情けない顔になってる。

ふ、と智が視線を逸らした。


「……自分勝手ですね。一度はめぐるを拒否したでしょう」

「ああ」

「なのに、これですか。自分の気持ちに正直になるのがのが遅いですね、坂城さんは」

「……ああ」

「あなたがこうやって来るのを、実は怯えて待ってました」

「え?」


蓮だけでなく、あたしも声を漏らした。


「いつやって来て、めぐるを連れ去ってしまうんだろうって。
今日になって、もう大丈夫だろうと安心したのに、これだ」


智は、くつくつと、乾いた笑いを漏らした。
と、あたしに顔を向ける。
哀しそうに、それでもそっと笑んでいた。

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