君にすべてを捧げよう
「婚約は解消しよう。ここで、関係を断ち切ろう」

「智……」

「幸い、まだ何も始まってなかった。何も問題ないよ」


膝をついたままのあたしの前に、智はひょいと座った。
哀しそうに、笑う。


「さようなら、めぐる。本当に、愛してたよ」

「さよ、なら……、ごめ、んなさ……い……」


止めたはずの涙が溢れる。
何度も謝罪の言葉を口にした。


「いいんだ。今まで女の子を気軽に捨ててたツケが、今来たんだ。
まさか、こんなにひどい罰だとは思わなかったけど」


頭を撫でようとして、智はその手を寸でで止めた。
ぎゅ、とこぶしに変えて、引っ込める。

くるりと振り返り、蓮に向かった。


「めぐるを、大事にしてください」

「ああ……。ありがとう」

「あなたにお礼を言われることはありませんよ。じゃあ」


す、と立ち上がった智は、一度も振り返らなかった。
去っていく車に、あたしはもう一度頭を下げた。


ごめんなさい。
幸せで包んでくれたのに、愛情で満たしてくれたのに、こんな形で裏切って、ごめんなさい。

そして、こんなあたしを愛してくれて、本当にありがとう……。


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