君にすべてを捧げよう
「ちょ! 蓮、何してるの!?」

「着て見ろ」


蓮の脱がせ方は、力任せな上、妙に上手い。
身を捩って拒否したあたしだったが、あっという間にショーツ一枚になり、ベビードールを無理やり着せられた。


「暴れんな。破けるだろうが!」

「だってだって恥ずかしいし!」

「お? めぐる。意外に似合ってるぞ」

「え?」


自分の体を見下ろす。

(……結構、可愛いかもしれない)

不覚にも、そう思ってしまった。
胸元はリボンで隠れているので、あまりいやらしさがない。
それに、生地の質がとても良いのだ。さらさらと肌に触れる感覚は柔らかくて心地よい。
どうやら、結構高級なものであるらしい。


「な? 結構いいだろ」


蓮の言葉に渋々頷いた。


「ま、まあ、これなら、うん」

「だろ。そういや、こういうのって上下のセットのはず……ああこれか。よし、下も脱げ!」

「うわっ!」


ころんと転がされ、まだ日の差しこむ時間帯だと言うのにショーツをはぎ取られた。
代わりに、レースのみで構成されている、ショーツを与えられる。


「せっかくだし、きっちり揃えろ。ほら、穿け!」

「えー……」


とは言え、下半身を晒しているのは恥ずかしいので、のそのそと足を通した。
共布を使っているから、これもまた心地いい……と思ったのだった、が。
やはり、編集部はマトモな物など一切入れていなかった。


「蓮……」

「なんだ」

「これ、肝心なトコ、割れてるんですけど……」


可愛らしいデザインのそれは、ぱっくりと、本来保護すべき部分が割れるようになっていたのだった。


「ほう、見せてみろ」

「嫌に決まってるでしょうがっ!!」


なんというモノを送り付けてくるのか。
羞恥で燃え上がりそうになったあたしは、自分の服をひっかんで別の部屋に逃げ出そうとした。
が、捕まった。再び蓮の腕の中に絡め取られてしまった。


「逃げんな」


背後からあたしを抱き留めた蓮が、耳元で言う。


「だって恥ずかしいし! こんなのもう二度と着ない」

「なんで。俺はいいと思うけど」


裾から蓮の手が忍び入る。
薄い布越しに、わき腹が撫でられるのが見えた。
その手はそのまま、リボンの下に隠された乳房に到達する。


「や……っ! まだ昼間だし!」

「いや、こういう姿されると、なー」


笑みを含んだ声音は余裕が垣間見えて、あたしをからかっているのだと思う。
と、耳輪に唇が落ち、ぺろりと舐められた。


「ん……。もう! ふざけない、で……っ」


抗議の声は、蓮の口中に吸い込まれた。
侵入してきた舌が、なだめてくるように優しく絡み合う。


「ん……」


最近、蓮のキスが柔らかくなった。
睦みあうような、じゃれあうようなキスは、蓮があたしに素直に想いを向けてくれていると実感できて、幸せに満たされる。


『こんな優しいキスできるんだ』


一度そんな風に洩らしたら、蓮はバツの悪そうな顔をしたっけ。


『切羽詰まってると、気遣う余裕なんか生まれねえんだよ』


なんて言われた時には、意外過ぎて驚いたものだ。
蓮はいつもいつも、あたしを振り回す側。
切羽詰まってるときがあるなんて、思えなくて。




「あ……っ、や……」


ふにふにと感触を楽しむように胸を揉みしだいてくる手が時折、反応し始めた突起を荒く刺激し、声をもらす。
気付けば、息を荒くして唇を求め合っていた。
刺激は次第に激しくなり、太腿の内側には蓮の片手が這っていた。
撫で上げた手の先が、僅かなレースで覆われた部分まで到達し、触れる。
す、と滑れば、ぬたりと濡れた感触があった。敏感な部分を布越しに強く摘ままれ、躰がしなる。


「ん……、や、」

「たしかにこれは、扇情的でいい」


くすり、と小さな笑い声と共に呟きを漏らし、蓮はショーツの割れ目に指を埋めた。


「これもまあ、おもしろい」

「や、ぁ……っ」


与えられる感覚に溺れる。ぼんやりとした視界の端に、事の発端を担った段ボールが見えた。それと共に、添えられた言葉を思い出す。
ああ、すっかり奴らの思うつぼじゃない。


(絶対! 塩まいてやる!)


しかし、密かな決意も、蓮の指先で霞の向こうに消え失せそうになる。
とりあえずその件は落ち着いたら考えよう、と決めて、蓮にキスをねだった。


                       【2】了
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