君にすべてを捧げよう
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その夜。
まひる亭の水炊きを囲んだ面々は、あたしと蓮、双方のの両親と、それに瑞穂さんという、大人数になった。


「おいしーい!! 瑞穂ちゃん、ありがとうねー」
「いえいえ。なんか、家族の席に私なんかが混じってしまってすみません」
「何言ってるの? 蓮たちがお世話になってるし、何より今回の功労者なんだもの、いて当然よ」


母親二人に囲まれてしまった瑞穂さんである。
結婚式というイベントに心血注ぎ切っている母たちは、瑞穂さんの結婚式までプロデュースしそうな勢いで、それを父たちが必死になだめているのだが、母たちは瑞穂さんを離そうとしないでいる。瑞穂さん、すみません!


「おい、蓮。寝るなよ。せっかくの酒がもったいない!」


蓮父の声に横を見れば、薩摩切子で冷酒をちびちび飲んでいた蓮が、うつらうつらと揺れていた。その揺れに合わせ、日本酒が零れる。
それを慌てて布巾で拭くと、「すまん」と蓮が詫びた。


「いいよ。眠たいなら、離れに戻ってる? 布団、敷いてあるけど」
「そうだそうだ、蓮は寝てろ。その酒は父さんが飲んどくから」
「水炊き、まだ食ってない。酒も飲むから嫌だ」


目を乱暴にこすった蓮が、自分の取り皿をあたしに寄越した。


「めぐる」
「はいはい」


適当に野菜と肉を入れたあと、柚胡椒をほんの少しだけ入れてから蓮の前に置くと、「ああ」と頷いて箸をとる。
その様子を見ていた蓮父がくすりと笑った。


「うんうん。よかったよかった」
「へ? 何がよかったの?」


意味が分からず訊けば、二組の両親と、瑞穂さんまでもがにこやかに笑ってあたしを見ていた。


「蓮は幸せだってこと」
「はあ?」
「めぐる。気にせず食え」


首を傾げたら、蓮に早口で言われた。


「そりゃあ、食べるけど」


蓮に応えて、はっとする。そういえば、瑞穂さんが来てからばたばたして、ついうっかり蓮と普段通りに口をきいてしまっていた。
あー、結局、うやむやになってしまうのか。
後でもう一回、文句を言ってやろうか。いやでも、せっかくみんなで和やかに食事しているのに、その後で嫌な思いをさせるのも、なあ。

むう、と考え込んでいるあたしをどう勘違いしたのか、母がほらほら、と声を上げた。


「めぐるもいっぱい食べなさいよ? あ、鶏団子入れたげようか。好きだったでしょう」
「? う、うん」


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