君にすべてを捧げよう
坂城蓮(さかしろ・れん)は、あたしより五つ年上の、母方のハトコである。
職業は……、作家。
雑誌に連載を持ち、マンガの原作もやっていて、一部では熱狂的なファンもいて、けっこう売れてたりする、らしい。
そんな仕事柄、締め切りにしょっちゅう追われていて、月の半分以上をパソコンの前でうんうん唸って過ごしているのだが、
たまにどうしてもネタが思い浮かばなくなってしまうことがある。
本人曰く、頭の中に草原が広がってしまうのらしい。
ネタを求めても求めても、たゆたう雲や揺れる草しか見えないのだとか。
そんなとき、蓮は我が家へやって来る。
正確には、我が家の離れに。
蓮が作家として駆け出しだった頃。
才能が枯渇した! と、あの離れに逃げ込んだことがあるのだけど、そこで奇跡的にネタを思いつき、長編を一本書き上げたことがあった。
それは自他ともに認めるほどの会心の出来で、好評を博した。
それ以来、蓮は何かあったら離れに篭るようになってしまった。
あたしとしては、それは嬉しいことだった。
年の離れた異性の、しかもすっかり成人したハトコと会える機会なんて、そうそうない。
蓮にとっては苦しい状況なのだけど、数日間一緒に暮らせると思うと喜んでしまう自分がいた。
向かい合って、食事をしながら会話ができる。
それだけですごく嬉しくて、幸せだ。
じんわりした温かさを感じながら、豆腐をぱくんと食べた。
そして、目の前にいる蓮のぼんやりした顔を見た。
視線は食卓に向けられているけれど、どれも見ていない。
ただひたすらに箸と口を動かしている。
……うーん、幸せだけど、ちょっと虚しい思いをしているのは否めないな。
味なんて全然わかってないんだろうなあ。
ため息をついて、テーブルの隅に追いやった資料の山に何気なく視線をやった。
職業は……、作家。
雑誌に連載を持ち、マンガの原作もやっていて、一部では熱狂的なファンもいて、けっこう売れてたりする、らしい。
そんな仕事柄、締め切りにしょっちゅう追われていて、月の半分以上をパソコンの前でうんうん唸って過ごしているのだが、
たまにどうしてもネタが思い浮かばなくなってしまうことがある。
本人曰く、頭の中に草原が広がってしまうのらしい。
ネタを求めても求めても、たゆたう雲や揺れる草しか見えないのだとか。
そんなとき、蓮は我が家へやって来る。
正確には、我が家の離れに。
蓮が作家として駆け出しだった頃。
才能が枯渇した! と、あの離れに逃げ込んだことがあるのだけど、そこで奇跡的にネタを思いつき、長編を一本書き上げたことがあった。
それは自他ともに認めるほどの会心の出来で、好評を博した。
それ以来、蓮は何かあったら離れに篭るようになってしまった。
あたしとしては、それは嬉しいことだった。
年の離れた異性の、しかもすっかり成人したハトコと会える機会なんて、そうそうない。
蓮にとっては苦しい状況なのだけど、数日間一緒に暮らせると思うと喜んでしまう自分がいた。
向かい合って、食事をしながら会話ができる。
それだけですごく嬉しくて、幸せだ。
じんわりした温かさを感じながら、豆腐をぱくんと食べた。
そして、目の前にいる蓮のぼんやりした顔を見た。
視線は食卓に向けられているけれど、どれも見ていない。
ただひたすらに箸と口を動かしている。
……うーん、幸せだけど、ちょっと虚しい思いをしているのは否めないな。
味なんて全然わかってないんだろうなあ。
ため息をついて、テーブルの隅に追いやった資料の山に何気なく視線をやった。