君にすべてを捧げよう
壁に掛けられた時計の針がちょうど14時を差したとき、店のドアが開いた。
のそりと入ってきた姿を認めたあたしは、慌てて駆け寄った。


「蓮、すごい。時間通りじゃない」

「ああ」


ふあ、と欠伸をする蓮は、寝起きのように見えた。
でも少しは気を使ってくれたのか、今朝見たよれよれの作務衣ではなく、シャツにジーンズという少しこざっぱりした服装に着替えていた。
まあ、頭はセットも何もしていないままだし、ヒゲも伸びきってるけど。
だけど、そこはたいした問題じゃない。
これからあたしが手をかけるんだし。

蓮は、元はいいのだ。
そのぼさぼさ、かっこよく仕上げてやる!


「じゃあ、こちらへどうぞ」

「ああ。お客、いないんだな」

「ついさっき、立て続けにお帰りになっちゃったの」


一番最後のお客さまは鏑木ベイビーズのメンバーで、隣県からお見えとのことだった。
片道に3時間近くかかるらしいので、鏑木さんに会うためにほぼ一日を費やしたことになる。
うーん、鏑木人気、本当に高し。


「はい、どうぞお座りください」


蓮を椅子に座らせた。


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