君にすべてを捧げよう
「で、どうしたいとか、ある?」

「ない。まかせる」


鏡越しに訊くと、簡潔な答えが返ってきた。


「だと思った。蓮の髪って真っ黒で重たそうだし、少しだけ明るくしてもいい?」

「ああ、構わん」


店の内装に興味がいったのか、物珍しそうに見渡す蓮が、頷いた。


カラーテスターを見てイメージを固め、薬剤を用意。それを髪に塗布していく。
その間も蓮は店内を見渡し、あれは何だ? だの、あの棚の物は何だ? だの、あたしに質問を繰り返した。


「めぐるちゃんの彼氏かな?」


余りの質問の多さを不思議に思ったのか、遠巻きに眺めていたオーナーがとうとう声をかけてきた。


「いいえ。親戚、ええと、ハトコなんです」

「ああ、そうなんだ。美容室に興味がおありなんですか?」


最後の言葉は蓮に向けられていた。
にこやかな笑みのオーナーを鏡越しに見た蓮は、


「ああ、作品のネタにできないかと思いまして。色々訊いてしまって、迷惑でしたら申し訳ない」


と小さく頭を下げた。


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